SOHO語源の真っ赤な嘘 ~今更ながら、ここだけの話~  | SOHOコラム

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SOHO語源の真っ赤な嘘 ~今更ながら、ここだけの話~ 

更新: 2001年09月20日
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財団法人九州ヒューマンメディア創造センター
主任研究員 (北九州テレワークセンター担当)
荒木幸生 2001.9.20

■平成8年頃に、ある大学の学者とある経済新聞がほぼ同時に、
「このところ米国では、市街地の空きビルや倉庫の片隅に、小さなオフィスを構えたり自宅を
オフィスとして使用し、パソコンと高速通信を利用して仕事をしている人が急増し、
ベンチャーとして成功している者も居る。この事が米国経済を活性化している」と発表した。

■「小さなオフィスを゛SmallOffice"と呼び、自宅オフィスを゛HomeOffice"と呼び、両者を称してSOHOと言われている」と補足し、その後「ニューヨークのソーホー地区が最も盛んだ」との、受けを狙った洒落までついた。米国の流行を直ぐ取り入れる日本の官庁・企業では、色めき立って早速流行となり、゛SOHO"の言葉だけが先行し、場所を指すのか、業種なのか、道具なのか、勤務形態なのか、現象なのか、人なのかの懸念と分析が、無いまま今日に至っている。

■へそ曲がりの私は、この報道と学者に怪しさ感じ、私のネットワークで執念深くことの真相を追求した。先ず最初に、米国の大学で5~6年間教鞭をとり帰国したH大のK教授に聞いてみた。K教授は「私も帰国してその話を聞き驚いている。私の大学は田舎だった所為か、SOHOなんて聞いた事も無い。尤も、戸建に住む首になった幹部級サラリーマンが、今まで納戸として使っていた自宅の半地下室で、小さなビジネスをしているのは見かけた。その事を゛SmallOffice" at゛HomeOffice"と呼んでいた様だ。」との事。

■次に、駐米日本大使館勤務から帰国した高官に聞いた。彼は「私も驚いている。SOHOは聞いた事が無い。確かに相当な地位だった人が独立して、自宅でビジネスをしていた。゛Homebased Business"と呼ばれていた」との事。

■三番目には友人のT大K教授が、米国の提携大学へ一ヶ月程出張するとのことで、「もし本当に流行しているなら、米国の事だから゛How to SOHO"的な本や゛Weekly SOHO"的な雑誌が出ている筈」と、買って来てくれる様に頼んだ。帰国後楽しみにしていた私に、「無かった。大学の図書館や図書検索システムでも出てこなかった。街の本屋で探し、やっと一冊あったので買ってきた」と、厚さ40~50ミリはある分厚い書物をくれた。中身は自宅でできる商売(例:花屋、クリーニング屋、コンビニ、鍵屋、修理屋等々)の仕入方、陳列法、帳簿、棚卸法、会計士への依頼、トラブル処理法等々が列記され、とても日本で言うSOHOのかけらも出てこない。


■やっと真相にありついた。かの学者と新聞はやはり怪しいとの自信をつけた私の手元に、ある財団のニューヨーク事務所が調査した「米国におけるSOHOの状況」というレポートを入手したのだ。「米国ではSOHOなる定義は無い」とした上で、次のような内容であった。

■80年代終盤から90年代初盤の米国産業界では、企業再構築の嵐が吹き荒れていた。人事面では本社機能を見直し、より小さな組織とし、固定費化した人件費を流動化する為にできるだけ外注とし、出勤しなくても仕事ができる人にはテレワーク勤務をさせ、それでも実効が足りない場合は、主にスタッフ部門で高給取りの管理職を解雇した。解雇させられた人達は、なまじ良い暮らしをしていた為に、ブルーカラーの仕事では生計がもたない。そこで、趣味や会社時代の専門性を活かし、独力で営業を始めた。おりしも、スーパーハイウェイが整備されているので自宅でも充分に仕事ができるし、大企業が発注する安い外注や外交セールスや通販による収入でも、かつての6~7割の年収にはなった。

■そういう仕事を゛SmallBusiness at HomeOffice"または゛Homebased Business"とも呼ばれ、テレワークを含むという説と含まないとする説がある。この事は、失業保険等の社会コストの出費増加を抑制すると共に、その人々のローン返済や消費活動の滞りを最小限にする事に結びつき、景気低下の歯止めとなったと言う。学者や新聞の紹介が如何に言葉足らずかが判った。SOHOと呼ばれていたわけでもなく、゛暗い背景により、やむを得ず取った行動"であり、ましてベンチャーを目指したわけでもない。

■おまけ。かつて私と同じ本部に在籍し、親しくしていたバングラデシュ人の青年が、米国・カナダの大学やシンクタンクを経験し、去年日本に戻ってきた。彼に上記の事を話したら、彼は「今米国ではSOHOの研究が活発です。その理由は、゛日本でSOHOというものが流行っているらしい。一体何なのだろう?"と言う事で・・・」と言っていた。今更伝道した学者と新聞社の軽薄さを批判しても意味がないし、走り続けるSOHO論議にブレーキをかける積もりもない。しかし、少なくとも真面目な議論や行政のSOHO支援策を検討する時は、SOHOの概念を明確にすべきと思い、敢えてここだけの話を記す。また、学者や一流新聞の発言を鵜呑みにし、盲信すべきでないことを唱えたい。