公益財団法人 相模原市産業振興財団

相模原のSOHO事業者への期待

前 相模原市産業振興財団
原田道宏
2004.4.26

最近、新聞折り込み広告などでよく見かけるキャッチフレーズがある。「明日から気軽にSOHO事業者」「パソコンを使って自宅でサイドビジネスを実現」といった類で、恐らく一般主婦層を対象にパート気分で在宅勤務を勧誘するものなのだろう。掲載内容の是非はともかく、こうした広告は急速なIT技術の進展により新たな形態として出現し、一般主婦層にまで深く浸透してきた現象の一つといえる。

その業務内容は、在宅でインターネットを扱いながらデータ入力やテープ起こし、HP作成などといった、いわゆる「気軽な仕事」から専門的な分野までさまざまで、さらにひと昔前には想像できなかったモノづくりの分野でのSOHO事業者も存在するのである。
 
 現在、「SOHO」という言葉は、登場した一時期ほどの盛り上がりを見せてはいないが、既に市民権を得るまでの身近な存在になってきているように思える。ただ、そうした浸透度とは別に「SOHO」への認識のズレが起きているのも事実である。
 一般的に、SOHO事業者は組織に属さず、通勤ラッシュもなく自由気ままに自宅で仕事をしていると思われがちである。確かにそうした「羨ましい」部分をSOHO事業者は備えているが、本当の意味でのSOHO事業者の厳しさはあまり強調されていない。
 私自身の2年間という浅はかなSOHO支援の経験ではあるが、いろんな場面でSOHO事業者が「厳しい現実」に直面している姿を垣間見てきた。「ここ数週間、寝る暇がない」「3日間徹夜するとさすがに体にこたえる」など、充血した目をこすりながら笑いがこぼれるSOHO事業者がいた。一方では、家事と育児に振り回されながらも、自己実現を達成するため朝方まで仕事をする主婦層の方も存在する。締め切りが近くなれば、それに間に合わせるため、許された時間を最大限活用し、ボロボロになるまで仕事をやり通す。受けた仕事は絶対に責任を持つ。仮に、納期が遅れれば、次の仕事が来なくなることもある。ひどい場合には、発注元からペナルティが襲って来る。まさに信用問題にまで発展するのである。SOHO事業者は、日々、こうした緊張感を持ちながら「体力勝負的な仕事」に取り組むのである。実はそれが、SOHO事業者の本来の姿かもしれない。ただ、そうした中でも、SOHO事業者は仕事の質が落ちないよう「自分の目の届く範囲」に事業領域を絞って、納得するまで仕事をやり抜く。そこには冒頭の「気軽さ」「自由さ」などの羨ましさは存在しえなく、「自己実現に向けた厳しさと責任感」だけが存在するように思える。
 そうした忙しいSOHO事業者であるが、地元にも視線を向ける。自らが生活し、働く場でもある地域に深く関心を寄せ、大切にしている。特に相模原・津久井SOHOスクエアの会員の皆様には、日程調整をやりくりしていただき、産業振興財団のSOHO事業にご協力をいただいた。本当に頭が下がる思いだった。ある時、デザイナーの方から印象に残る言葉を伺った。「単にお金持ちになりたいのならばSOHOにはならなかっただろう」という一言だ。
 
 文字通り、SOHO事業者は個人事業主もしくは多くて2〜3人の組織体である。そのため営業活動から納品、さらにはメンテナンスに至るまですべて一人で担当しなければならない。組織内に身を置いていれば、自らが担当する専門分野にだけ傾注すればいいのだが、SOHO事業者になると不慣れな営業活動、経理事務もこなさなくてはならない。それをしないと仕事は来ない。自らの専門業務にも影響を及ぼす。そんな悩みを抱えているSOHO事業者も少なくない。
 その一方で、同業種間の競争も日々激化してきている。価格競争も厳しい。市場原理では優位性のない企業は淘汰されてしまう。そのため、他社と差別化が図れないSOHO事業者は消えていく運命を辿る。こうした環境下でSOHO事業者が生き抜いていくには、自ら持つコアコンピタンスを強みに、常に新しさを身に付け、展開していくことが必要だろう。その新しさを身に付ける方法のひとつが、ネットワークづくりといえる。言い換えれば、SOHO事業者各人が持つプロフェッショナルな技術をネットワークを通じて融合させ、新たなビジネスを作り上げていくものなのである。
 まさにこうした考えは、昨年設立した「職人界」の趣旨でもある。これまでのSOHO事業者は単に仕事を受注していくという、いわば受身的な発想だったが、今後は、SOHO事業者であっても仕事を創っていくような積極的な姿勢があってもいいのではないだろうか。
 
 今後の相模原市の産業を考えると高度経済成長期の重厚長大型産業構造から軽薄短小型産業構造へと確実に移っていくだろう。そして、社会構造の成熟化に伴い、消費者のニーズもより一層多様化・高度化・個別化を示していくと考えられる。そうした時代の潮流を地域においてきめ細かく受け止めていくのがSOHO事業者と言えそうだ。その意味でも今後、地域のさまざまな場面において、相模原のSOHO事業者は活躍し、元気な街を創りだしていく源となっていくと思われる。

 SOHO事業関係者の皆様には在職中、大変お世話になりました。この場をお借りし、厚くお礼申し上げます。
(さがみはら都市みらい研究所 はらだ みちひろ)

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