公益財団法人 相模原市産業振興財団

SOHO事業者のネットの意義

荒木 幸生 2002.1.1

【SOHOとは?】

‘SOHO’と言う呼び名が日本に登場してかれこれ5年近くなる。「今アメリカでは……、スモールオフイス・ホームオフイス……」と学者・メデイアから報告され、正確な紹介と定義が無かった為に言葉だけが先行し、発言する人の勝手な定義がまかり通る、という流れになってしまった。(相模原・津久井SOHOスクエアhttps://soho.ssz.or.jp;「SOHO語源の真っ赤な嘘」参照)ここでは、「コンピューターを道具として使い、主にデスクワークによる製品やサービスを提供する独立自営の個人またはグループ」と仮に定義した上で話を進めたい。

【従来にない就業形態と業態】

従来からの伝統的就業形態が「被雇用者が定められた場所に通勤し、定められた時間を勤務する」とすれば、SOHOは「場所と時間に拘らない」全く新しい勤務形態(テレワークの概念に非常に近い)で、雇用関係が無い独立自営の就業形態である。会社での仕事の様に階層や所属毎に分担し、バトンタッチ式ではない。何から何まで自分でしなければならない。誰もして呉れない、手伝ってくれないのだ。

業態についても従来の分類で”ソフト産業””サービス産業”と簡単に括る訳には行かないない。”コンピューターを道具としたデスクワークによる成果品”は多岐多様に亘る。清書・テープ起こし・編集・デザイン・プログラム作成・CADソフト・CG映像作成から研修や設計等々”業種”に分ける事はおよそ困難である。

【良い事ずくめではない。山積する課題・問題】

実態が定かでなかった時代は、学者やメデイアや○○協会・△△学会等の団体は良い事ずくめの報告をしていた。良い事は言い尽くされた感が有るので、ここでは触れずに課題・問題を抽出してみたい。

1. 仕事の進め方や成果は自分の責任である事は勿論、言訳や替りが利かず、病気で仕事を遅らせる訳には行かない。
2. 自ら営業しなければならない。必ずしも儲かり面白いやりたい仕事ばかりではなく、「直ぐ来い」の呼び出しもある。
3. 家族と住宅事情は十人十色、必ずしも在宅勤務に向かない事もある。特に事務所替りの部屋を現在の自宅で確保するのは”兎小屋並み”と言われる首都圏の平均的住宅では極めて難しい。幼い子供に仕事を邪魔されたり、禁煙を強いられたり、近所の騒音が激しかったり、仕事中に家族への電話に邪魔されたり、仕事の電話がうるさがられたりもあるだろう。
4. 年収は保証されず、従来と比べると減少する事が多いだろう。
5. 什器備品はリースが利かず(法人しか相手にされない事が多い)、高価な機器を揃えるには高額な資金が必要だが、これまた個人では金融機関の貸し渋りに合う事が多い。
6. 無理を承知で受注し、無理をしてこなす事が多く、健康を損ねる事もある。
7. 仕事のでき映えを厳しく見てくれる人が居ない。
8. 新技術を習得(講習等で受講)する機会が少ない。
9. 仕事の繁閑が極端になる事も多い。
10. 出先での仕事場に不自由。モバイルワークにも限界。
11. 契約の知識に疎く、不利な条件で発注者側に丸め込まれる事もある。最悪の場合取りっ逸れになる 事もある。
12. 最後に(本当はこれが一番の課題)残念ながら、まだSOHOは玉石混交。信用力が普遍的ではない。かつては「SOHOですが…」と名乗ると、物珍しがって会っても貰えたが、最近では敬遠される事も多いと言う。怪しいSOHOが出回っているとの事。まだまだ有るだろうが主なものはこんなところだろう。
【ネットワークの意義】

課題・問題の解決にネットワークが有効な場合が多い。上下関係ではないパートナーシップでの協調と補完関係の網を張り巡らせるのだ。緩やかなグループにするのも効果的だ。

これにより、仕事が忙しい時は手伝って貰い、閑な時は仕事を廻して貰う。病気で寝込んだ時ににも替りが利く時もある。仕事のでき映えも診て貰えるし、相互に研鑚し刺激を受ける事もできる。新技術も教えて貰えるかもしれない。SOHOには珍しい営業が得意な人には受注活動で頑張って貰い、技術が得意な人にはどんどんこなして貰う。お互いのコネを開示する事により営業網も広がる。高価な機器を持っている人が、持っていない人に使わせてあげれば喜ばれるだろう。互いに暇を作り共にお酒を飲む事により、ストレスの解消にもなる。関係が巧く継続できそうなら、共同出資の会社を設立できるかもしれない。契約も一人の目より複数の目でチェックした方が安全だ。取り逸れになりそうな時の交渉も、連れが居た方が心強い。

そうしたパートナーシップを組む時にも、幾つかの重要な留意事項があるのは言うまでも無い。
第一に心底信用できる人を相手に選ぶこと。もし裏切られたら裏切った相手を恨む前に、そんな相手を選んだ自分を反省する事。次に、共同作業中の仕事以外は互いに干渉しない事。第三に、仕事の分担と繋がり及びお金の分け前については、充分過ぎるぐらいの合意を得る事。第四に、必要な時に短時間で会える事。

【エージェントへの期待】

2、3年前から”エージェント”と言う人々の存在が着目され期待されている。これまた確たる定義も無く言葉が先行していたが、最近の定説では、SOHOに欠ける信用力と営業力をカバーし、「仕事を取ってきて、その仕事に相応しい自分のグループのSOHOへ、仕事を分配する人」との事。個々のSOHOにとっては営業の負担が減るし、ネットワークを組む面倒もグループの運営の苦労も無い。ひたすらエージェントの信用を得て、仕事の分配を待てば良いのだ。ところがエージェントもまだまだ玉石混交なのだ。仕事の分配を受けたSOHOに”石”が多いのはまだしも、(私の経験では)その”石”にさせた仕事を、そのまま納品する”石”のエージェントも意外に多い。エージェントが相互に切磋琢磨し優勝劣敗を付けて、SOHO個々人にとっても、発注者にとっても有難い信頼できる”玉”として定着する事が待たれる。

【だからこそ求められるアナログでの信用】

「デジタル上のネットワークで受発注し共同で仕事ができる」のがSOHOの良い所との通説がある。しかし通信にしてもパソコンにしても所詮は道具、信用は道具にあるのではなく、使い手にあるのだ。仕様書上で内容・機能・性能・寸法等の殆どを規定できるものならいざ知らず、出来栄えや内容やサービスの良し悪しが求められる仕事を、顔も腕も判らない人に発注する人や、受けた仕事を一緒にやろうとする人はいないだろう。アナログでの信用があってこそ、デジタル道具の便利さが生きるのだ。

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